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千葉市の「外国人児童生徒指導協力員派遣事業」の問題点

 今年8月の記事「仏作って魂入れず―千葉市の外国人受け入れ体制」で、千葉市の学校は外国出身の子どもが編入してくると、診断・評価などを行わずに、外国人児童生徒指導協力員(ネイティブ指導員。以下「指導協力員」)の派遣を市教委に申請するだけだと書いた。

 今回は、その「外国人児童生徒指導協力員派遣事業」について述べる。

 指導協力員の指導・支援については、生徒から「こんなことを言われた」とか「噓を教えられた」など何度か聞いていた。

 その都度、他の講師と共に、市教委に改善を申し入れたが、私が在職した7年間では改善の兆しが見られなかった。

 中でも最も重篤なものは、「指導協力員は、生徒(中学生)が学校に行かずに就労していることを知りながら、学校にも市教委にも報告しなかった」という事案である。

 このことを中心に、以下に詳しい経緯と問題点等について述べる。(画像は一部加工してある)


1 発覚の経緯

 この生徒は1年前に来日したが、日本語が全くできず、不登校状態になっていた。3年生になってから日本語教室に通級し始めたが、不登校状態は続いていたようだ。余談だが、学校からは「学校は欠席していますが、日本語教室には行っていますか」などの問合せは一度もなかった。傍目にも学校から放っておかれているのが分かった。

 しかし、不登校の間も指導員協力員とは、スマートフォン等で連絡をとっていたようだ。また、日本語通級教室は全く欠席せず、通常どおり週に1回通級していた。

 ある日、担当の講師が「今日は学校に行ったのか」とたずねたところ、「最近は学校に行かずに、工場で働いている。○○先生(指導協力員)も知っている。」と答えた。


2 発覚後の経緯

 担当講師は、事実を知った時点で市教委の担当指導主事に電話した。後日、在籍校の教頭から「保護者を指導して就労をやめさせた。」との報告があった。しかし、市教委からは、指導協力員を指導したのかなどの事後措置について何の連絡もなかった。市教委は、ことの重大性を理解していないと私は不満を抱いていたので、退職後に次のような対応をとった。


3 市議会への投書

 指導協力員の不適切な指導・支援については、生徒から耳にする度に、他の講師とともに、市教委に報告して改善を求めていた。

 しかし、7年間の在職中には改善の兆しが見られなかったので、市教委の事業について調査、指導する権限を持つ市議会の教育未来委員会宛に投書した。(画像1)

 投書の内容は、この件だけでなく、在職中に耳にした他の不適切な指導・支援も含めて書いた。例えば、ある生徒が「私は早稲田大学の付属高校に入りたい」と言ったら、指導協力員から「それなら、早稲田という名前のつく塾に行った方が良い」とアドバイスされた。私はこの話を聞いて、後日ボランティアの母語話者から「大学と似たような名前がついた塾があるが、大学とは関係がない」と生徒に伝えてもらった。この後、この生徒は指導協力員の指導は必要ないと学校に申し出た。


4 市教委への情報開示請求

 投書してからしばらくすると市議会から、「市教委から説明を受けた。時間が経過して事実を確認できないものもあったが、当時の市教委の対応は概ね問題がなかった」という調査結果が届いた。(画像2~3)

 しかし、市教委が市議会にどのような説明をして、このような結論になったのか分からないので、説明内容が分かる文書の開示を請求した。(画像4)

 すると、市教育長名で書かれた市議会教育未来委員長宛の説明文書と指導協力員の研修内容を記した文書が開示された。(画像5~8)

 しかし、その場で市議会側からどのような質問が出て、何と答えたのかなどが分からないので、重ねて詳細な内容の分かる文書の開示を請求した。(画像9)

 この開示請求に対しては「公文書不存在」の通知があった。つまり、私が求めた情報を記載した「公文書」は存在しないと回答してきた。しかしこの通知文には、市議会側からどんな質問があったのかなど、私が求めた情報が一部説明されていた。(画像10)それによると、市議会側からの質問は、主に研修の内容、実施回数等についてであったとのことだった。


5 自己情報(個人情報)開示請求の紹介

 以上が、この事業を改善させるために私がとった手段であるが、その他にも児童生徒自身がとれる手段がある。それは、自己情報(個人情報)開示請求である。

 入試関係者はご存知のように、千葉県の公立高校の入試では、学力検査の自分の得点や調査書の内容を開示請求できる。同様に児童生徒が「指導協力員が自分を指導した時の記録」の開示を請求できる。

 千葉市の市政情報室に確認したところ、未成年者でも保護者の同意なしに請求できるし、小学生でも請求を禁じる規則はないとのことだった。

 指導協力員に不満を述べた生徒に、この制度を紹介したところ、何人かの生徒は実際に開示請求した。

 ある生徒に開示された文書を見せてもらったが、指導内容は「適応指導」「心のケア」など一般的な記述ばかりで、具体的な指導は記載されていなかった。私の推測だが、この請求後に市教委は指導内容を「形だけでも」記録させるようになったようだ。


6 問題点

  私が考える問題点は、次の3点である。

(1) 市教委に「多文化共生社会」「学校の国際化」などについてビジョンがないこと。

   この事業の根本的な問題は、市教委に「理念」や「ビジョン」がないことだと私は考

  える。これが端的に表れているのが、昨年度まで市教委の組織の名前に「国際理解班」 

  という言葉を使っていたことである。

   ご存知のように、「国際理解」や「国際理解教育」という言葉は、文科省が2005年

  に「国際理解教育から国際教育へ」と教育の内容を改めるよう呼びかけた。千葉県教委

  も以前からに使っていない。

   一方千葉市は、市役所の国際交流課の所管事務の概要には「多文化共生社会の実現を

  図る」と書かれているにもかかわらず、市教委は以前からの「国際理解」という言葉を

  昨年度まで使っていた。

   私が最もあきれたのは、市立稲毛高校が中等教育学校に改編されるが、その学校像に

  「グローバルリーダーの育成」が掲げられている。今どき「国際理解教育」などという

  言葉を使っている教育委員会に「グローバルリーダー」の育成などができるのかと疑念

  を持たれるということに気がつかなかったことだ

   これらのことから、千葉市教委は、「多文化共生社会」を実現するためには教育委員

  会としてどのような施策が必要なのか、「国際理解教育」と「国際教育」はどのように

  違うのかなどの検討がなされてこなかったのが分かる。

   ちなみに、この件は私が在職中に、教育指導課長宛に「国際理解教育」という言葉を

  改めるよう進言する文書を送ったが、反応がなかった。退職後に「市長への手紙」に同

  趣旨のことを書いたら、「国際理解班」が「国際教育班」に名称変更された。

(2)外国出身の子どもを組織的に指導・支援する姿勢がないこと。

   外国出身の子どもが編入してきたら、どんな指導・支援が必要なのか、それを誰がい 

  つ担うのかなどの検討がなされていない。

   開示された指導協力員に対する本年度の研修内容を見ると、学校、指導協力員、日本

  語教室などの「ネットワークの構築」が主な内容になっている。しかし、それぞれの立

  場の者が具体的にどんな役割を果たすのかには触れていない。「ネットワークづくりが

  大切ですよ」という意識づけのレベルで終わっている。前回の記事で紹介した京都市の

  「日本語指導トータルサポートシステム」とは大きな違いである。

   学校は指導協力員の派遣を申請する際に、どんな内容を指導して欲しいのかなどを示

  さないで、ただ何語の指導協力員がいつ必要なのかを申請をするだけで終わっている。

   指導協力員も児童生徒について学校と情報交換する姿勢がない。ある元校長の話で

  は、指導が終わると事務室に挨拶もしないで帰る指導協力員もいるそうだ。

   これらを改善するためには、意識づけだけでなく、学校との連携を確実に実行させる

  「仕組みづくり」が必要である。

(3)指導協力員を採用した後、職務遂行に必要な研修や日常的な指導がないこと。

   昨年度と本年度の研修の内容が開示されたが、改善策として有効だろうか。

   「中学生が就労しているのに、市教委にも学校に報告しなかった」事案の再発を防止

  策するには、進路指導の知識よりも「外国人が日本で生活する上で必須の知識」を与え

  るのが先ではないか。

   言うまでもなく、日本では法律により、中学校卒業前の就労は禁止されている。15

  歳という年齢区分ではなく、中学校の卒業という義務教育終了の時点が基準になってい

  る。また、マスコミ等で時々報道されるが、就労資格を持たない外国人が就労すれば、

  不法就労となり、強制送還される可能性もある。

   外国人を支援する立場では、このような知識は「イロハのイ」ではないか。ましてや

  彼らはボランティアではなく、公金で雇われている「プロフェッショナル」のはずだ。

   指導協力員が問題になる度に、市教委が言う「みんな良い人たちだ」とか「みんな一

  生懸命やっている」という問題ではなく、職務遂行に必要な知識を与えないで、指導・

  支援にあたらせておいて良いのかという問題である。


7 改善を促す手段

  来日当初は、外国出身の子どもにとって母語を話す指導員の指導は、学習支援や適応支

 援を得る唯一の機会かもしれない。それが、母語を話せるというだけで雇用されている。

  そして市教委は、子どもの指導・支援に必要な知識や技術を培い、適切な人権意識を育

 む機会などを十分に与えないまま学校に派遣している。

  特に今回の件は、「初等教育を受ける権利」や「児童労働」に関する問題である。ご承

 知のように、「児童労働」の問題は、ILOやユニセフ等の国際機関が長年取り組んでお

 り、ILOは「2025年までにあらゆる形態の児童労働を根絶すること」を目標に掲げてい

 る。

  千葉市教委の対応を見ていると、指導協力員だけでなく、指導主事等の行政職員も「人

 権意識」や「国際的な課題」に対する意識が低いのではないかと感じる。その例が、「国

 際理解教育」という文科省も千葉県教委も使っていない古い言葉をいつまでも使っていた

 ことである。


  市教委がこのような状態なので、担当者や市教委そのものに申し入れるだけでは効果が

 あまり期待できない。それよりも、「ことを公にする」「外部の目を入れる」などの取り

 組みが必要だと私は考える。

  今回のように、行政機関を調査する権限を持つ議会に申し入れたり、場合によっては法 

 務省人権擁護局や労働基準監督署などに情報提供したりすることも考えられる。

  その際には、行政や公的な機関が見過ごすことができないような「キーワード」を含め 

 ることが必要だと思う。例えば、今回の場合は「人権侵害」「教育を受ける権利」「児童

 労働」などである。


 外国出身の子どもの不利益が何となく見過ごされることなく、公にされて、改善が図られるように多くの人にご努力いただければと願っている。


画像1ー千葉市議会への投書
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画像2ー市議会の回答(表)
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画像3ー市議会の回答(裏)
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画像4-公文書公開請求-1
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画像5ー市教委から市議会への報告(表)
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画像6ー市教委から市議会への報告(裏)
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画像7-昨年度の研修
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画像8-本年度の研修
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画像9-公文書公開請求-2
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画像10-不開示決定通知書
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